SAGA DESIGN SEEDS

連載
シーズベーカリーSTORY

福島市の小麦から起こした自家製酵母パン店「SEEDSBAKERY | シーズベーカリー」。なぜシーズベーカリーができたのか?という経緯や、ブランディング、デザイン、店舗設計などの経営の裏側までお話する連載です。

福島市生まれ。福島県立福島高校卒業。多摩美術大学卒業。制作会社を経て2014年に福島にもどりSAGA DESIGN SEEDSに入社。妻が焼くパン店「シーズベーカリー」の共同経営者。趣味はフライフィッシング。
2021.11.24

シーズベーカリー STORY#4
「 食パン ブーム」に乗り遅れた ベーカリー

TORU
自家製酵母の角食パン。奥に見ゆるはレーズンの山食パン

食パン ブームに乗り遅れたシーズベーカリー

食パン ブームというのがあったらしい。 食パン 専門店なるものがここ福島市にも押し寄せる中、わたしたちは完全に自分達のハードブレッドの研究に勤しんでいたのです。まるで、研究室に閉じこもっていたら、再び下界にでたときに世界が様変わりしていました。カンパーニュこそおいしいパンと信じて疑わない私たちですが、 食パン もまたとても良いパンなのでもあります。

食パンについて

食パンの良さとはなんだろう?こんなに食パンというものをマジメに考察すること自体がちょっと馬鹿馬鹿しい気もするけれど、お付き合いいただきたい当コラムなのです。それはなんの因果かハードブレッドと対比することによってその良さがわかります。

◎カンパーニュは皮が硬い。食パンはやわらかい。

◎カンパーニュは不定型である。食パンは定型である。

◎カンパーニュは香ばしい。食パンはあっさりとしている。

トースターとの相性が良く、ホットサンドや型の中にも収まりやすく、素材を邪魔しない。これが食パンの良さなのです。つまり形の使いやすさ、そして味の主張のなさが食パンの魅力なんです。

シーズベーカリーの 食パン

シーズベーカリーの食パンはたったの3種類です。「 角食パン 」「 小さな食パン 」「レーズンの 山食パン 」です。この他には、チョコブレッドや、その時時のシーズンの食パンをお出ししています。これまでハードブレッドの魅力を語ってきてはいましたが、食パン に対しても愛情はあります。朝の忙しい時や、とにかく手軽に早く食べたいときは食パンは重宝するものです。シーズベーカリーのオリジナリティはどこかといえば、やはり安全な国産小麦を使っているということと、イーストでなく、自家製酵母というところです。食パンとは言え天然酵母なので、やはり酸味がありますしそのあたりが私たちの食パンの魅力とも言えるところです。

シーズベーカリー公式HP

シーズベーカリーinstagram

2021.11.02

シーズベーカリー STORY#3「 カンパーニュを見直した 」

TORU
毎度、パンばかりの写真でごめんなさい

パンの魅力は、おいしいことが一番

シーズベーカリー の佐賀です。人生で初めて、食べたカンパーニュは、ぼそぼそっとしておいしくないと思いました。これがカンパーニュか。ならばおれは、カンパーニュを食べなくてよいと思ったほどです。いかにもフランスの田舎のひもじい暮らしを連想させるそのパンは、ちょっとごめんなさい。と敬遠したくなるものでした。

良いことと楽しいことを両立させたい

SDGs全盛です。良いことは大事、飲食店やベーカリーを含めてのSDGs的ミッションは、フードロスの問題と小麦の安全性や農業におけるCO2排出の削減。でも、どんなに正しいことをやっていても、それ以上にどう楽しく見せられるかが重要だと気づいたのもこのときでした。つまり、どんなに意義があるパンでも楽しい!おいしい!おいしそう!という集客と広報とパンの実力(じつりき)がなければ、正しい行動はすべて無駄になってしまう。SNSの普及や5Gの時代においてなおさらそうなりました。

カンパーニュを見直した

カンパーニュはいまや全盛の時代です。ぼそぼそっとしたカンパーニュ嫌いの私がどうそこからカンパーニュを見直したのか。それはとても簡単で、インターネットのレシピでした。海外の素人からプロまでパンのレシピを公開するフォーミュラがあり、そこで偶然最初に見つけてやってみたカンパーニュのレシピが、「これが、あのカンパーニュ?」と疑いたくなるほどおいしかった。クラスト(パンの皮)がバリっと硬く、香ばしく、切ってみると、おおきな気泡がぼこぼこと均一にあって、いわゆるオープンクラム(大きな気泡がたくさんある)。クラム(気泡)の縁にはつややかなグルテンの伸びた膜があり、もっちりしている。これぞおいしいパンを食べたときの醍醐味だと思いました。そして、同時に「いままで嘘つかれてた」とすら思ったのです。僕がときどき書く目詰まりパン(クラムが潰れて、気泡が小さく明らかに過発酵に見えて、ぼそぼそっとしている)のがカンパーニュだと思っていたあの時を返して欲しい。

フランスの山岳地方のパンを調べれば調べるほど、クープも洒落ていて、とても華やか。田舎暮らしというものが、貧しいものからとても楽しいものに見えた。そう、僕らは楽しい方向にしか惹かれていかない。

ほかのシーズベーカリーSTORY(https://www.saga-d.co.jp/tanemag_cat02/dailyseedsbakery/

SEEDS BAKERY ( シーズベーカリー )( https://seeds-bakery.com

2021.10.21

シーズベーカリーSTORY#2

TORU

変えていく2つの景色

シーズベーカリーの変えていく2つの景色というのを二大ミッションにした。「休耕田を小麦畑の景色にかえる」もうひとつは「食卓の風景を変える」ということ。前回なぜ大きな カンパーニュ を焼くかという理由がこの二つ目に大きく関わる。

大きな カンパーニュ

ニーズを考えれば、核家族化や未婚率から、パンのサイズはどんどん小さく個人向けのものになっている。それにパンは多くの日本人にとってみれば主食というより、「おやつ」としての側面も大きい。そんなことよりも、私たちはパンは大きく焼きたかった。そしてこのパンの大きさでしか伝えられないものがあると考えた。そしてこの大きさでやく私たちも楽しい。

大きな カンパーニュ が美味しくなる理由

パンの側面をクラスト、中身のことをクラムという。大きなパンはクラムがもっちりとしあがって、クラストが相対的に薄く、パリッとする。自家製酵母 で起こしたみずみずしい生地が、オーブンのなかでパリッとした皮のなかで長い時間かけてゆっくり火がとおることによってこの食感が生まれてくる。

なかなか売れなかった大きな カンパーニュ

でもこの大きなパンはなかなか売れなかった。どちらかといえば小さいコロコロしたパンが売れて、カンパーニュは売れなかった。だけど、これはシーズベーカリーのミッション「食卓の風景を変える」ことの象徴。簡単に止めましたとは言えない。これは、策略というより覚悟というほうがいいかもしれない。私たちがパンを焼く喜びや小麦のおいしさがつまったこのパンが売れなければやっている意味もないと感じた。

お客様の吸収のはやさ

最初にこのパンに目をつけたのは、料理教室を開いている人や料理人、シェフ、海外で暮らした経験を持つ人たち、それにとても料理が大好きな人。生活を楽しむ人たちだった。彼らは食べ方をすでに知っていて、それを広めもしてくれた。勇気を出して買ってみるわと言いながら買って行ってくれたお客さんもいた。一人暮らしのお客様も半分はスライスしてすぐに冷凍して使うなどして、こちらが食べ方をお知らせするまでもなくとても早い吸収力で使いこなしてくれている。いまではカンパーニュはもっとも早く売り切れるもののひとつだ。

もうひとつの変えたい景色

冒頭で述べた変えたいもうひとつの景色というのに、休耕田を小麦畑にということを書いた。この着想は、コーヒーのサードウェイブの考え方に似ている。パン屋のなかでも新しい考え方をする人たちは、麦畑と密接に関わって、農家と関係性を持ちながらパンを作っている。シーズベーカリーの畑は、あづま運動公園そばの佐原地区にある。次回のストーリーではこのあたりを書いてみよう。

シーズベーカリーSTORY#1(https://www.saga-d.co.jp/tanemag_cat02/dailyseedsbakery/#seedsbakery_story1
シーズベーカリー公式ホームページ(http://seeds-bakery.com
シーズベーカリーインスタグラム(https://www.instagram.com/seedsbakery/